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2013.05.16 (木)

「 最悪に備えよ、鳥インフルエンザ 」

『週刊新潮』 2013年5月16日号
日本ルネッサンス 第557回

中国で発生した鳥インフルエンザウイルス、H7N9型の人への感染は少なくとも2月中旬に始まったと見られる。4月30日時点で感染者128人中24人が死亡と報道されたが、専門家を筆頭に、およそ誰も中国政府発表の数字が実態を示しているとは思っていない。

2002年のSARS発生時に情報隠しで国際社会の非難を浴びた中国政府は、過去の失敗から学んでいないのだ。今回、当初は情報を積極的に公開したが、感染症対策を担う国家衛生計画出産委員会は情報発信を大幅に制限し始めた。日々行われていた記者会見を、4月24日以降、週1度に減らしたのである。

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの田代眞人センター長は、人類にとって未知のウイルスに関する情報は、日々刻々、開示するのが好ましいと指摘する。中国政府が情報発信を休んだこの1週間で死者は4人増え、5月2日時点で26人に上ったと発表された。だが、この数字も氷山の一角だ。田代氏の説明である。

「3月31日に鳥インフルエンザウイルスの遺伝子の塩基配列、RNAの全情報が公開されました。ウイルスの性質を遺伝子から想像すると、高い致死率をもたらすとは考えにくく、症状が軽く済んでいる人や全く症状を顕さない人が大勢いてもおかしくない。感染者は中国政府発表よりはるかに多い数万人レベルに達している可能性があります」

中国の内陸部や地方の医療体制は貧弱を極める。人々も貧しく、病院が存在するとしても、経済的に病院に行く余裕のない人々が多い。従って地方で鳥インフルエンザで死亡した人がいても、治療さえ受けられない人々の死が統計に反映されることなどない。発表が全体像を表しているとは言えない理由である。

種の壁を越えて

それでも現在判明している患者の状況から、ウイルスの幾つかの特徴が読みとれる。田代氏が解説した。

「今回のH7N9型による被害の特徴はまず患者に高齢者が多い点です。95%以上が60歳以上の高齢者、加えて男女比は約2対1です」

中国人の平均寿命は男性71・6歳、女性75・0歳である。60歳以上という分類は、日本よりも「お年寄り」の人々というのが実感である。

H7N9型ウイルスがなぜ若い人たちに軽い症状しか起こさないのかはまだ、解明されていない。03年後半から世界的に広まったH5N1型という鳥インフルエンザウイルスの場合、殆どの患者が40歳未満の若い成人か子供だった。2つのウイルスは対照的である。

H7N9型ウイルスのRNAからも興味深い事実が判明している。

「第一にこのウイルスは少なくとも3種類の鳥ウイルスの遺伝子が交雑を起こして生まれたということです。更に、この交雑ウイルスが人間に取りつき、大流行を起こさせるのに必要な幾つかの条件を満たしてしまったことも明らかになりました」と、田代氏。

H7N9型ウイルスは突然変異を経て人間に取りつき易くなった。鳥から人へ、種の壁を越えてしまったわけだ。しかし、ウイルスの生きていく環境としては、鳥と人間では大いに異なる。ウイルスが生き延びて増殖を続けるための最適温度は鳥の体温だった。人間よりはるかに高い摂氏40~42度である。一方、人の体温、とりわけウイルスが取りつく上気道、鼻や喉の温度は35度前後である。

35度ではウイルスは増殖出来ないはずだった。ところがH7N9型は35度でも増えてしまう。変異を遂げて温度の壁も乗り越えたのだ。

種と温度、2つの壁を乗り越えても、少なくとももうひとつの変異を達成しなければ、ウイルスは人から人への感染を増やしていくことは出来ない。その第三の条件はウイルスが他の人に辿り着くのに十分な安定した生命力を備えることである。

「近い距離で大量にウイルスを吸い込めば感染する危険は非常に高まります。けれどウイルスは結構弱い存在で、ある程度の距離があれば、感染力をなくしてしまうのです」

田代氏は、この生命力の壁をH7N9型ウイルスはまだ越えることが出来ていないというのだ。但し、このことは人から人への感染が起きていないということではない。

4月24日に、中国を訪れた台湾人ビジネスマンの感染が明らかになった。この人物は中国滞在中、生きた鳥との接触はなく、人から移された可能性を示唆する事例だった。

この他にも中国では同一家族の中に複数の患者が存在する事例があり、人から人への感染が疑われている。このような事例から人・人感染の可能性は否定出来ないとしながらも、田代氏は人・人感染がすでに起きているとは断定出来ないと慎重である。それにしても不思議なことがある。

別の宿主が存在する可能性

「中国には6,000億羽の鳥がいます。うち調査したのは最新情報では、7万羽です。その内、H7N9型ウイルスをもっていたのはわずか40羽でした。非常に少ないですね。その鳥たちが感染源だとしたら、上海、北京の大都市をはじめ浙江省、江蘇省、江西省、安徽省、河南省、山東省、福建省、湖南省の8省という広大な地域に、しかも短期間に感染が広がり、100人以上の患者が出現したのは不思議なことです」

つまり、鳥だけが感染源だとは考えにくいというのだ。鳥から人に感染する間に、別の宿主が存在する可能性は排除出来ず、他の哺乳類、たとえば豚、小動物の犬や猫、ネズミなども感染源となっている危険性に留意すべきだという。鳥だけに注目する現在の手法は、修正されなければならないと、氏は指摘するのだ。
氏は、実は人類が備えるべき敵は、H7N9型に加えて、03年に流行したH5N1型ウイルスだという。

「H5N1型については日本では全く報道されませんが、本当に大きな問題なのです。このウイルスがいま鳥の間で増殖を続け、かつてのように人間への感染を起こせばどうなるか。主として高齢者に被害をもたらすH7N9型と、40歳以下の若い層に被害をもたらすH5N1型の双方に、私たちはいわば二正面作戦を強いられます。そうなるとお手上げです」

危機管理の第一歩は最悪の事態を想定することだ。その上で確固とした手を打てば、危機の回避は可能である。鳥インフルエンザの場合、日本への上陸を防ぐことは出来ず、しかも、すでに上陸していると考えなければならない。従って危機管理の主軸は早期の治療である。一定の効果が認められているタミフルやリレンザなどの早期投与が必要だ。

日本には当面十分な備蓄はあるが、備蓄をどれだけ迅速に配布出来るかなど、流行の兆しが出た段階で素早く動ける体制作りこそ急がれる。

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「 最悪に備えよ、鳥インフルエンザ 」

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